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産まれた娘は、喜多と名付けられた。
喜びの多い人生となるようにと。
喜多は、女子として産まれたことが勿体ないほどの娘であった。
良直が聞かせた話をよく理解していた。
時折、良直ですら思いつかないようなことを言って驚かせる。
「この子が、男子であったなら。」
良直は喜多を見て、よく思ったものだった。
素晴らしい将になっただろうと。
学問だけでなく、武門にも通じる。
「父上、今度、兵書を学ばせてください。」
喜多がそのようなことを言い出すころには、
最早、正室との間に
嫡男は無理なのではないだろうかと考えていた。
側室との間の子供が、女子であった場合は、
どうにかして、喜多を跡目とできないだろうか考えてもいた。
身近にはいないが、遠く離れた地方には、
女子が跡目を継ぐといった話も聞く。
家格は低いが、主の晴宗殿であったら、
女子であっても、このように文武両道の喜多であれば、
跡目を継ぐことに反対もしないであろう。
そう考えるのは、良直や良直の父である元実を取り立ててくれたこともあったからだった。
「そのようなことを、女子が学ぶものではありません。」
窘める声が聞こえてきたところで、良直は、
「そのようなことを言うな。喜多はよく学んでいる。
女子にしては良い才能に恵まれた。
いつかは鬼庭家、伊達家のために、
喜多が学んだことは必ず役に立つであろう。」
良直は、喜多の頭を撫でると、
喜多は嬉しそうな顔を向けた。
「そうですね、それは私とこの子が鬼庭家にいる間は。」
皮肉めいた言葉に、良直は
怪訝な顔をすると、
側室が子を産んだということを伝え聞く。
「離縁してください。」
何かが崩れ落ちる音がした。
「男子が産まれました。」
それは、良直待望の嫡男の誕生であった。
しかし、その嫡男は喜多のように利発的で学問にも武門にも通ずるのだろうかという不安があった。
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