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かなり苦いよって言われて、じゃあミルクとお砂糖をドバッと入れるから、って答えたら、やんわりなだめるように断られて。そういう風にして飲むなら、コーヒー牛乳の方が断然美味しいよ。無理しなくていいよ。
それ以来、大人しくわたしのために常備されているコーヒー牛乳に甘んじてきたけれど、本当はずっとタイミングを図っていた。
中学生になったら、わたしの味覚だって少しは大人になる筈。小学生の時はさすがに無理があったけど、もう大丈夫でしょう。
そしてセリさんがいない時。野上くんと二人だけになれたら、今度こそわたしだけのためのコーヒーを淹れてもらうんだ。
…実際には店内にお客さんいるから、厳密には二人きりじゃないけど。
そう決めてたのに、わたしは。まさか覚えてないとは。
「コーヒー、淹れてもいいけど。飲んだことはある?家とかで」
「…ない」
うん、家で自分で淹れて味に慣れようかな、と思ったことはある。でも結局それはしなかった。初めてのコーヒーは野上くんの淹れてくれたのじゃないと嫌だ。なんか、意味がなくなる気がして。
「そうだなぁ…、飲んだこと全然ないんなら、やっぱり最初はある程度ミルクと砂糖は使った方がいいだろうね」
野上くんは思案するように続ける。
「それでなるべく柔らかめの味の豆で、薄めに淹れてみようか。慣れたらだんだん濃くしていけばいいんじゃないかな」
「でも、それじゃあ」
思わず言葉が迸る。
「セリさんのと同じじゃない、よね?」
しまった。
多分あたし、ヘンなこと言った。
野上くんの目が少し大きくなる。
「…何で?」
何でって。
「何?セリさんの飲んでるのと同じがいいの?」
「いや、その」
下を向いてぼそぼそと誤魔化す。てか、この反応、野上くんてもしかして本当鈍い?心底鈍い?
わたしは、もう自分の気持ち、とっくにバレてると思ってたのに。まさかの全然通じてない?
それはそれで、…やりにくいというか。凹むわ。
やっぱり大人の男の人から見たら、中学一年生なんてまだ子どもなのかなぁ。世間でJCとか言われてるアレは何なんだろ?中学生になれば女として見られるって思うよね。全然違うじゃん!
カラカラン、とドアベルが鳴って、ああ、わたしと野上くんの貴重な二人きりの時間はもう終わり。振り向かなくてもわかる。ドアが開く前から微かに聞こえてたきゃあきゃあ言う幼稚園児の賑やかな声。
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