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せっかくの機会なので、ちょうど考えていたことを父にも聞いてみることにする。
「ねぇお父さん」
「ん?」
「お父さんはさ、セリさんの何処が好きなの」
父が一瞬、コントみたいにコーヒーを噴き出しそうになるのを見た。危ない。
「大袈裟な反応だなぁ」
掃除が大変になるから気をつけてほしい。
「朝からヘンなこと聞く方が悪いだろ!何で俺がセリのこと好きだなんて思ったんだよ。そんな事実何処にもないだろ」
「えー…、そこ?」
わたしは結構心底呆れました。えっ、そんな今さら隠すの?娘に自分の気持ちバレてないとでも思ったの?そっちの方がびっくりだよ!
中年男のプライド面倒くさ…。
わたしはとりあえず譲歩した。
「じゃあさ、仮にでいいよ。仮にお父さんがセリさん好きになるとしたらさ。どんなとこに惹かれるかな?想像してみてよ」
『仮』にしてあげただけで、父は意外と乗ってきた(本当は話したいんじゃん)。
父は考えを巡らすように視線を泳がせ、コーヒーを飲みつつテーブルに片肘をついた。
「そうだなぁ…、あいつのいいとこかぁ。男らしいとこかな?」
「えっ、最初がそれ?」
結構意表を突かれた。
親父は大真面目で頷いた。
「ハッキリすっぱりさっぱりしてて、一緒にいて気分がいい。うじうじ、ウダウダしない。冷酷できっついけど、意外に親切。それでいて」
耳赤らめるな、中年男!
「何というか…、ふたりきりになったりすると、意外と可愛いくなったりするとこかな…」
うーん。聞かなきゃよかったかも。朝から思ったより生々しいわ~。
「…それ、最近でも?」
「いや全然。もう大昔も大昔の話」
なるほど、やっぱりね。この二人、昔は本当にちょっとなんかあったんだな。親父が結婚する前か離婚した後かは知らないけど。
野上くんが現れるより前なことは確かだろう。
「どうしてちゃんと捕まえとけなかったの、セリさんのこと?」
思わず口からポロっとこぼれた。
「あたし小さい頃、てっきりセリさんが新しいお母さんになってくれると思ってた」
言ってしまった後、自分が父親のメンタルに致命傷を与えてしまったことに気づく。
ああやっちゃった。親父、見るからにライフゼロ。
「…まりさ。お前にはまだまだわからないだろうけど」
ちょっと弱った声で、何とか言葉を絞り出す父。
「世の中には、こっちの気持ちだけではどうにもならないこともあるんだよ…」
うん。何となくわかるよ、お父さん。
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