コーヒーには早すぎる(あるいは、野上くんとわたし)

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親父の後処理が悪かったんだろうから、本人に丸投げすればいいとはいえ、家までの数分間にもし何かされたらどうしよう。 「いいの、あなたは気にしないで。迷惑をかけるつもりはないの。ただ、市井さん…、友明さんに最近全然連絡が取れなくなって…。なにかあったんじゃないかなって心配で、来てみちゃったんだけど」 言葉だけ聞いてると普通の内容みたいなんだけど、どうしよう、何かが違う。こういうのって怖いものなんだなぁ。大人になっても絶対ストーカーになるような体たらくにはなりたくないものだ。肝に銘じておこう。 「あの、父は元気です。ご心配頂いてすみません。大丈夫ですので」 帰ってほしいあまり自分でも何言ってるのかわかんない。 「いいの、ここまで来たらどうせなら顔みて」 …いきなり、少し離れたとこからカシャッて音がした。カメラのシャッター音。 わたしと彼女がバッとそっちを見ると、相変わらず落ち着き払ったセリさんがゆっくりと近づいて来た。悪びれもせず手にはスマホを持ったままだ。 わたしの顔を見て、普通の調子で話しかける。 「どうしたの。この人、友達?」 「ううん。…多分、お父さんの」 何て言ったらいいんだ。友達?愛人とも言えないし。まさかストーカー?本人目の前にしてか。 でも、どっと全身から力が抜ける。よかった、大人のひとが来てくれた…。セリさんなら絶対守ってくれる。もう大丈夫。 「そうですか。…あの、この子に何か?」 言葉の調子は柔らかいが、有無を言わさない感じ。彼女は気後れしたのか、あの、とか、特には、とかごもごも言ってる。わたしはそれに反比例するようにだんだん落ち着いてきた。 彼女に向かって話しかける。 「あの、この人」 お父さんの。そう言いかけて、もしセリさんが逆恨み的にストーカーの標的になったらまずい、と思い直す。 「…うちの、親戚の人です」 「この子、どうかなさいましたか?」 セリさんはさっきよりややはっきりと再度彼女に尋ねた。 「いえ。…あの、あたし、友明さんに用事が」 「そうですか。親の方に御用でしたら、すみませんが直接そちらにお願いしますね」 セリさんはきっぱりと言った。声が大きいわけでもないのに、迫力。 「子どもは怖がりますから。このご時世ですしね」 「はい。…すみませんでした…」 彼女は消え入りそうな声で呟き、そそくさとその場を立ち去った。
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