コーヒーには早すぎる(あるいは、野上くんとわたし)

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わたしとセリさんは、彼女の背中が角を曲がって消えるまでその場に立って見送る。 「…やれやれ」 彼女が戻って来ないことを確認すると、セリさんははぁーと大きなため息をついた。 「全く、大人気ない。…子ども相手に。成人の風上にも置けないね。大丈夫、まりさ?」 「うん。大丈夫。…だけど、怖かったぁ…」 思わずセリさんの腕に掴まる。セリさんはもう一方の手で頭を撫でてくれた。 「友明のヤツ、もうちょっとその辺上手く立ち回ってると思ったのに。全然駄目じゃん。全く…」 セリさんは憤懣やるかたない、といった感じで小さく呟く。 「…遊びだかなんだか知らないけど、自分の娘に影響が及ぶ時点で駄目だっつうの」 独り言のように呟かれた声だったが、しっかり聞こえてたわたしは呆れた。 うちの親父、セリさんに『あの娘たちは遊びだ』とか言ったんかな。マジか。サイテー。 わたしはしみじみ、親父の阿呆さ加減に感じ入った。そんなこと言って口説いても、ああそう、ってなる女の人、いるわけないじゃん! なんとなく、あの人がセリさんに今ひとつ相手にされなかった感じがわかる気がする…。 「まりさ、相手にわかるように写真も撮ったし、いざとなったら警察行くけど、しばらく通学怖い?もしなんだったら、野上に送迎させようか。まさかあんたの親父にさせるわけにもいかないしね。標的はそっちなんだし」 天にも昇るような素敵なご提案を頂いたが、好きな人にそんな風に手間をかけさせていいかどうか迷う。それに、あの様子を見ると、もうあたしの方には来ないんじゃないかなとも思うし。 わたしは首を振った。 「…多分、大丈夫だと思う…」 「そっか。やっぱ怖いと思ったら遠慮なく言って。学校の先生にも友明から言ってもらって、ケータイ行き帰り待たせてもらいな。学校、ケータイ禁止でしょ?ちゃんと説明してもらってね。まぁ先生に話すの、相当恥ずかしい話だけどさ」 はい。本当にごもっともです。 「あ、何も馬鹿正直に自分のストーカーですって言う必要もないか。店でトラブルがあってとか何とか誤魔化せばいいよね。何にしろ、あたしからも友明に釘刺しとくから。…う~ん」 ちょっと口ごもって言葉尻を濁す。 …そ、か。あんた、恋愛すんのは勝手だけど、後始末ちゃんとしなよくらい、セリさんならズバズバ親父に直接言うと思ったけど。
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