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やっぱりそこら辺、二人の間には言葉にしづらい、微妙なものがあるのかもしれないな。
わたしはこっそりと、深々しいため息をついた。親父のヤツ、本当こじらせてるなぁ…。
「野上から言ってもらうか…、いや、それもかえって角が立つか…」
歩きながらしきりに思案するセリさんに気を遣って、わたしは言った。
「いいよ、セリさん。あたしからちゃんとお父さんに言えるよ」
「駄目、そうもいかない。ちゃんと大人が話し合ってあんたを守らないと」
セリさんはきっぱり断言し、腹をくくったように呟いた。
「…まぁ、友明にはちょっと耳の痛いことになるかもしれないけど、仕方ないでしょ。自分の不始末だし、自業自得だよ」
「はぁ…ごもっともです」
わたしは少し恥ずかしくなって、うなだれた。こんなんでセリさんがあたしのお母さんになってくれたらなんて考えてたんだから。
セリさんはわたしと並んで歩きながら、ポンポン、と肩を叩いた。
「まぁまぁ…、あいつも若い時はまだ全然、あそこまでじゃなかったよ。まああのナリだからモテはしてたけどさ。あんなチャラくもなかったし、女の子と特に遊んでもいなかったんだけど。そのうち収まるんじゃない?」
セリさんはわたしを慰めるつもりで言ったんだろうけど、わたしはそれで気づいてしまった。
親父が女の子と遊び始めたのは、多分セリさんに振られてからなんだ。
そして、セリさんはおそらくそのことを知ってる。
それでそのことに対して口出ししづらくなってるんだろう。
わたしは初めて、父親にほんの少しだけ同情を覚えた。大人もいろいろ、大変なんだなぁ…。
「セリさん」
思わず、考えるより先に口が動く。
「…セリさんは、うちのお父さんと結婚しようとは一度も思わなかったの?」
可哀想な親父の棺桶の釘にとどめの一撃を加える言葉しか返ってこない可能性が高いけど、それでも聞いてみたかった。
「…思わなかった」
親父。…気の毒に。
セリさんは、考え考え、ゆっくりと言葉を選ぶように話した。どうせ話すのならきちんと話そう、子ども騙しでなく、という感じ。
「あんたのお父さんとあたしは、友達だった期間がすごく長くて」
はい。多分、二人の間に何かあった後、友達の関係になったんだね。
「あたしの方がそうだったから、向こうもそうだとしか思わなかったし。まりさと三人で過ごしたりしてても、それも友達だからだと思ってた」
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