コーヒーには早すぎる(あるいは、野上くんとわたし)

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…セリさん…。 鈍すぎです。 セリさんは肩を竦めて、あまり表情も変えずに続けた。 「一度ね、友達だと思いこんじゃうと、そこから全然修正できなくなっちゃうんだよね。こういう台詞も、こういうことするのも親しいから。友達だから…。そういうバイアスがかかっちゃってて、本当のことが見えなくなる。まぁわたしは」 ちょっと言いづらそうに言葉を切った。 「…友明に、ずっと友達でいて欲しかったのかもしれないけど。こんな答えで」 「ううん、大丈夫。もういいよ」 わたしは慌てて遮った。これ以上聞いても、親父もセリさんもなんか痛々しくなるばっかりな気がするし。それに。 「でもあたし、嬉しいよ。二人がなまじ恋人同士になって、別れちゃってそれっきりとかじゃなくて。友達でいてくれたから、あたしはセリさんや野上くんやつむぎとこうやって一緒にいられるんだもんね」 それは本当に心からそう思う。二人がどういう経過を辿ったのか、どういう決断をしたのかはわからないけど、友達でい続けることを選択してくれてよかった。 そうでなかったら、今頃わたしはひと気のない母親のマンションの部屋と父親の店の二階で交互にひとりで過ごすだけの毎日だったろう。想像するだけで、ぞっとするほど寂しい。 セリさん一家と賑やかに過ごす時間があるからこそ、わたしは忙しくてあんまり一緒にいる暇のない母親や父親とも笑顔で接することができてるんだと思う。 「そうだね。あたしたちがこういう風な状態を選んで正しかったのかどうか、正直まだ自信はないんだけど」 セリさんは思案するような目つきで再び話し出し、その言葉からわたしはおそらく二人が決裂するか付き合いを続けるか、どこかで一回選択する機会を持ったんだってことに気づく。 「…でも、もっと時間が経って、子どもたちが無事に大きくなってみんな歳をとった時にさ。結局みんなで一緒にいてよかったんじゃない?って思える日が来たら、こんないいことはないなって思うんだよね。まぁまだずいぶん先のことかもしれないし、これからどうなるかも何とも言えないけどね」 うん。 「大丈夫だよ、セリさん」 わたしはセリさんの手を取ってぶんぶん振り回した。 「あたしもつむぎも、セリさんと野上くんとずっと一緒にいるよ。ずううぅっっと」 セリさんはわたしの台詞に遠慮なく渋い顔をして見せた。
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