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「いや、あんたたちはずううぅっっとここにいちゃ駄目なの。ちゃんと親たちを放っぽって、独立して出て行ってくれるのが子どもの仕事だろうが」
「えー…」
セリさん、冷たい。
「まだまだ一緒にいたいのに…」
「だからまだ全然先だって。そんなこと今は考えなくていいの。そのうち出ていくなって言われても、どうしても出て行きたくなるもんなんだからさ」
「そんなものなのかなぁ…」
野上くんから離れて?
本当にそんな日がわたしにやって来るんだろうか。今は全然現実感がない。
そんな日が訪れた時、わたしは喜ぶべきなのか。それとも悲しむべき?
わたしは再び、セリさんの腕に甘えるように掴まった。
「そう言えばセリさん、今日はこんな時間にひとりで外出珍しいね。どしたの?」
「コンビニ。明日の朝のパンと牛乳、買い忘れてた」
言われて見ると、わたしが掴まってる方の手にしっかりとコンビニ袋が握られてた。
「野上くんお店番?」
「うん。つむぎも今は店にいるよ」
「早く戻らなきゃね」
「そうだな」
わたしたちは、並んで口々に話しながら家に帰った。野上くんとつむぎの待つ家へ。
更に数日後。
わたしが帰宅してカフェに入って行くと、野上くんがひとりで店番をしていた。
「お帰り」
「ただいま。セリさんとつむぎは?」
「二階だよ。仕事しながらセリさんが見てくれてる」
「そっか。あたし、上に行ってつむぎ見てあげた方がいいかな」
そうすればセリさん、仕事に集中できるしね。
「あ、でもまりさちゃん、前にコーヒー飲みたいって言ってたでしょ」
不意打ちにドッキーンと心臓が跳ねる。ちゃんと覚えててくれたんだ!
どさくさに紛れてつむぎと同じオレンジジュースになって、あれでまた忘れられちゃったと思ってた。
カウンターの中から席を指して手で招く。
「今ちょうどお客さんいないから。機会があったら淹れてあげようとと思ってたんだ。座って」
「はい」
足許がふわふわして落ち着かないが、何とか平静を装って席に着く。
ペーパーフィルターをセットする、野上くんの慣れた手つき。ああ、本当に…、
素敵。ずっと見てられる。
「この間、セリさんと同じのがいいって言ってたけど」
「あっ…、うん」
わぁ、やっぱり憶えてるかぁ。恥ずかしい。
野上くんはあたしを見てにっこり微笑んだ。
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