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思えば片思い中の相手に向かって何話してんだか。
「やっぱりああいうのは、架空の世界のお話なのかなぁ…」
カウンターに顎を載せただらしない姿勢でこぼすと、野上くんは楽しそうに笑って言った。
「まりさちゃん、大きくなったんだなぁ。もうそんな話題かあ。…でも、まだ中一でしょ?全然これからじゃないの、そういう話は」
「あ、でも」
わたしは急に、以前セリさんから聞いた話を思い出してガバッと顔を上げた。
「前にセリさんが言ってたよ。野上くんは中一の時にはもう『リア充』だったんでしよ?」
蒸らし終わった豆の上にそっとお湯を注ぎかけてた野上くんは大幅に手許を狂わせてカウンターの上にお湯をこぼした。
「危なっ!」
「…ごめん」
やたらと慌てた手つきでカウンターの上を拭く。
「それ、何?セリさん、何て言ってたの」
「詳しいことは教えてくれなかったけど。野上くんは中一の時にはもう付き合ってる人がいて、ラブラブだったんでしよ?今時の中学生、何やってんだかって思ったってセリさん言ってたよ」
「セリさん…」
恨めしそうに呟く野上くん。
「全然今時じゃないし。もう二十年前だよ…。大体、子どもに何てことを」
「子どもじゃないよ!」
心外!思わず憤然と反論してしまう。
「それに、中一の時の話を中一の子にしてるわけでしょ。何が問題なのか全然わかんないよ?」
「いやそれはまぁいろいろ事情があってさ…」
変な汗をかいてる様子の野上くん。何なんだろ、こんなに動揺するなんて。
野上くん、中一の時、本当に何やってたんだろ?
「俺のことは置いといてさ。 一般的に言って、中一なんてまだまだそんなこと、みんな思ってるほどはないんじゃない?特に男子なんてさ。多分ほとんど小学生だよ。どの女の子が好きとか、全然ない子だってザラだと思うよ」
自分はリア充だったのに?そう思ったけど、口には出さないでおく。この様子だと、どうせこの話はこれ以上、絶対断固としてしてくれないに違いない。後でセリさんにもっと探りを入れてみよう。
「うんまぁ、あたしだって別にモテたいわけじゃないんだよ。自分が好きでもない人に好かれても別に嬉しくないしさ」
頬杖をついて考え考え言うと、野上くんは意外にも首を傾げた。
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