コーヒーには早すぎる(あるいは、野上くんとわたし)

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「あのねぇ、みんなして薄化粧を褒めるけど、実際には素っぴんに近く見える薄化粧ってすっごいテクニックが要るんだからね。あのひとだって、構わないように見えても絶対外見に気を遣って手をかけてる筈なんだから。なんでみんなナチュラルメークの女に騙されるかね!」 なんかあったのか、うちの母。大人の女もいろいろ大変そうだなぁ…。 うちの母とセリさんはそんなにしょっちゅう顔を合わせるわけではないけど一応顔見知りではあり、表面上はちゃんと和やかに談笑してるのを見たことあるけど、母の方は内心穏やかでないものがあるらしい。父と別れてもう相当経つし、そこそこ長い付き合いの恋人もいるし、そんなに父に未練があるとは思えないんだけど。 離婚に至った真の原因は、父の山ほどいた浮気相手(みんな若くて可愛い)ではなく、実はセリさんにあるらしいことは母は母なりの勘で気づいていたんだろうと思う。かと言って浮気の実態があったわけでもないし、責めるに責められない辺りもフラストレーションが溜まったのかもしれない。 かくして未だにすっきりしない、やり切れないものが残っているようなのだ。 それと、言動から伺うに、母自身や浮気相手たちと較べてセリさんだけがキャラクターがかけ離れているのもどうやら今ひとつ面白くないらしい(薄化粧をやたら目の敵にするのも多分それ)。なんとなく、親父の本気の本命が誰なのか、それだけでくっきりと際立って見えるからだろう。 わたしは勿論セリさんが好きだから、全面的に母の側に立つことは出来ないけど(実際四分の一くらいはセリさんに育ててもらってると思うし)、 血の繋がっている娘として、彼女の割り切れない思いもわからないではない。 しかし、この場合、悪いのはセリさんなんだろうか。本当に問題なのは、いつまで経っても昔好きで上手くいかなかった(多分)ひとに未練たらたらのうちの父なのではないのか。どうせどっかの時点できっぱり振られているんだろうに、そこで切り替えようと思わなかったのかな…、と。 以前はそう考えていたけど、今のわたしは、そう簡単にいかないよねぇ…、と思い始めている、かもしれない…。 「何重いため息ついてんの。それにしてもさぁ、あんたの野上くんにしろパパにしろ、一体そのセリさんの何処にそんなに惹かれるんだろうね?話を聞いてる限りじゃ、すっごい美人ってわけでも色気があるってわけでもないんでしょ」
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