第1章

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口を象るシワがぐらりと縦に歪む。 それはどう見ても笑みだった。笑うときの口の動きに違いなかった。 ただし、それは幸福を示す笑いではない。 なにかが楽しくてそうなったわけではない。まして再会をよろこんでいるわけではない。 相手を蔑み、貶す笑み。冷笑。 恨み余って思わず漏れだした、憎しみの笑い………… 「新聞記者とか、教育委員会とかにいろいろ聞かれたそうですね。 いや、悪いことをしました。僕の勝手な行動で随分と嫌な思いをさせてしまったそうで………」 今度は目の部分のシワが笑みの形に歪む。 満悦、という言葉がピッタリと当てはまる、そんな表情に見えてくる。 そこからくる視線の圧力に押されてようやく、『彼』は一歩後ずさる事ができた。 が、入ってきたドアは既に閉まっていて、それ以上の後退は許されなかった。 がたん、という戸に背中を打ち付けた音が敏感になった神経を刺激する。 「ほんと、この新聞記事を読むと、本当に迷惑かけたなぁって思いますよ。 わざわざ葬式なんかに来てもらって、申し訳ない……あ、なんだったらこれ、読みますか?というか、読んでくれるとありがたいなぁ」 そう言うと新聞紙は、瞬間表情を失うと同時に、『彼』の手元にひらりと舞い降りる。 そこには、一人の丸ヌキの顔写真と共に『中1 いじめを苦に自殺 クラスメイト複数名関与か』の見出しが刷り込まれていた。 記憶の中にある新聞紙の声の主の顔と、その記事の写真に写るメガネ面とが完全な一致を見る。 「昨日の新聞なんですけどね、僕が自殺した事がかかれてます。 クラスメート複数名によるいじめでの自殺………いやぁ、話が回るのは本当に早い。日本のメディアは優秀です。」 手元の新聞がはははと大きな声で短く笑い声を上げた。 『彼』は驚いたのと気味が悪いのと、気圧されたのとで思わず尻餅をつく。が、新聞紙は手から離れていなかった。 いや、正確には離れてくれなかったというところか。
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