「滅びし者達・ドール」

2/2
前へ
/19ページ
次へ
 私の身体は、冷たく硬い。  私の瞳は、虚ろで暗い。  私の心は霧の向こう側に存在し、ここには無い。  何もかもが混濁し、カオスな状態に還った世界。  混じり合う時間と空間。  生命と非生命。  光と闇。  受容と拒絶。  愛と……絶望。  そんな世界を、私は横たわった体で眺めている。  かつて私に「意識」が存在していた頃、  何かしらの「想い」を発していた事がある。  だが、それは遥か頭上の暗い空間に吸い込まれ、  儚い泡のように消えて行った。  もう、その頃にあった意識が、  何を思っていたのかも解らない。  或いは、全てが幻影だったのか。  私はマネキン。或いは、アンドロイドと呼ばれる者。  いや、かつて人間と呼ばれた事があったかもしれない。  遠い昔。忘れ去られた世界で。  見上げた空、瞳に映る物は無く、  ただ遥かな「無」が広がっている。  誰もいない、捨てられてしまった世界の片隅で、  私は永遠の時の中に身を晒している。  誰にも見つけられる事無く、誰の意識にも触れる事無く。  今日も荒れた大地に、忘却の風が吹く。  
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加