きっと好きになる

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振り向いた葵は眉間に皺を寄せて俺を見ている。 いつもの、友人の目で。 それに気づいた俺は自分の口を指で塞いだ。 言ってはならない、と制止するために。 「――ああ、別にいらん」 「……は?」 「あいつの事」  先生。 葵が前に付き合っていたアイツ。 葵が、自分から言い出すなんて思わなかった。 「ごめ――」 「――謝んな。いらん。もう言わない。二度と言わない。だから言うぞ」  さんきゅ。  葵はそう言って両手を上げた。 それは降参とかの弱弱しい形ではなく、真っ直ぐ、ぴん、と清々しい形。  ああ……うん、そっか。  俺は口元から指を外す時に、作った。 葵に向ける、多分いつもこんな感じだろうな、という笑った口を。 それから何も言わずに手を振って、俺は踵を返したのだった。
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