プロローグ

3/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/216ページ
 東上が仕事から帰って、階段を登ろうとすると、 「あ! 東上さん、今、お帰りですか。お疲れ様でした」  獏川は相変わらず丁寧だ。 「ああ! 獏川さんもおつかれでした」  オレもそれに負けないように返す。 「では」  獏川は、鍵を開けずに入って行った。――ん? 鍵、掛けずに部屋を出てたのか?―― 不思議だったが、気にしないでおこうと思った。  夕飯を済ませてきたので、少しくつろごうと思い、テレビを点けようとした。――あれ、リモコンは…。 ああ、そうだった…。―― ふと、隣から話し声が聞こえた。 「いいところを見つけたな」 「はい、絶好の場所かと」 「そうだな、ここなら問題ないだろう」  隣に、獏川以外に、もうひとりいるようだった。声がくぐもって、はっきりとは聞こえないが、神妙な雰囲気なのは伝わってくる。丁寧に話している方が、獏川のようだ。 「私といたしましては、寝るだけですので」 「しかし、もっとマシな場所もあっただろ?」 「いえ! 贅沢は敵でごさいます」 「そうか、それで、例の件だ。どういうことかわかったのか?」 「申し訳けございません。まだ調査中なのですが、憶測ならつけられます」 「ん、なんだ、話してくれ」 「あの猫の頭の中にあの子が出てきてしまうというのは、何らかの絆が生じたのかと」 「たとえば?」 「たとえば、『友情』とか、『永遠』とか、そういった類のものではないかと」 「うーん、そうかもしれんな。まだ出会って数日だからな、運命的なものだろうか?」 「そのようにも思っております」 「しかし、相手は――だぞ、そのような事が起こりうるのか?」
/216ページ

最初のコメントを投稿しよう!