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東上が仕事から帰って、階段を登ろうとすると、
「あ! 東上さん、今、お帰りですか。お疲れ様でした」
獏川は相変わらず丁寧だ。
「ああ! 獏川さんもおつかれでした」
オレもそれに負けないように返す。
「では」
獏川は、鍵を開けずに入って行った。――ん? 鍵、掛けずに部屋を出てたのか?―― 不思議だったが、気にしないでおこうと思った。
夕飯を済ませてきたので、少しくつろごうと思い、テレビを点けようとした。――あれ、リモコンは…。 ああ、そうだった…。―― ふと、隣から話し声が聞こえた。
「いいところを見つけたな」
「はい、絶好の場所かと」
「そうだな、ここなら問題ないだろう」
隣に、獏川以外に、もうひとりいるようだった。声がくぐもって、はっきりとは聞こえないが、神妙な雰囲気なのは伝わってくる。丁寧に話している方が、獏川のようだ。
「私といたしましては、寝るだけですので」
「しかし、もっとマシな場所もあっただろ?」
「いえ! 贅沢は敵でごさいます」
「そうか、それで、例の件だ。どういうことかわかったのか?」
「申し訳けございません。まだ調査中なのですが、憶測ならつけられます」
「ん、なんだ、話してくれ」
「あの猫の頭の中にあの子が出てきてしまうというのは、何らかの絆が生じたのかと」
「たとえば?」
「たとえば、『友情』とか、『永遠』とか、そういった類のものではないかと」
「うーん、そうかもしれんな。まだ出会って数日だからな、運命的なものだろうか?」
「そのようにも思っております」
「しかし、相手は――だぞ、そのような事が起こりうるのか?」
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