住良木の 『仕事』

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住良木の 『仕事』

『カチッ カシャン!』 金属質の音がする。 『シュ、シュシュシュ』 布ズレの音もする。 『ジィーー』 ファスナーを上げる音だろうか。  部屋を移動したようだ。シャワーを浴びているのか、水の音が聞こえる。水音か消え、タオルで身体を拭いている音がする。服を着替える音がする。 『カチャ』 カバンの取っ手を持ったようだ。 『カチャ、ジャラ コン カシャ キー バタン! カチャッ』 ドアの鍵を開け、チェーンロックを外し、ドアを開け、ドアを閉め、ドアをロックした音がした。  ――さて、仕事に行こうか。―― オレは、スーツの上着を着て、カバンを持って、玄関のドアを開けた。するとそこには、昨日引っ越してきた住良木がいた。 「ああ! 住良木さん! 昨日は結構なものを、ありがとうございました!」 「ああ! 八幡さん、いえ、大したものでは。これからご出勤ですか?」  住良木の笑みは、オレをなごませるようだ。 「はい、そうです。住良木さん、そこまでご一緒にどうでしょう?」 「はい、行きましょう」  オレは素早くドアをロックし、住良木に追いついた。住良木は魅力ある男性だ。男のオレから見ても惚れ惚れする体躯だ。近づいてわかったのだが、顔や首筋などに、軽いミミズ腫れのようなものがある。――なんの傷だ?―― 住良木は少し大きめのスーツケースを持っている。指先や手の甲も、ミミズ腫れだらけだ。 ――なんだろう? 特殊任務の部隊にでも所属しているのか?―― 「住良木さんは、かなりいい身体をしてらっしゃいますが、なにか武術などを?」 「ええ、ボクシングを基本に、いろいろやりましたよ」 「へぇー、そうなんですか。ご職業は警察官、とかでしょうか」 「はい。そのような仕事についています」 「だとしたら、このマンションは安泰ですよ。住良木さんのような方がいらっしゃったら、悪いことを考えるヤツもいなくなるしょう!」 「そうあってもらいたいですね」 「あ、私は駅の方に向かいますので、それでは」 「はい、また」
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