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自分のではなく、他人の耳にピアスホールを開けるという行為は、それが特別な相手である時どこか背徳的な悦びが伴う。
それは何回か想像をしたことがある光景だ。
その人が私にピアスホールを開けてくれと頼んできて、柔らかな耳朶を差し出すのだ。そうして晒された横顔は、まるで私のことを全面的に信じてくれていると錯覚を覚えるほど無防備だろう。私はその耳朶をそっと手に取り、そこに銀色の鋭い針を当てがって突きつける。その銀色はそっと皮膚に埋め込まれていく。それは何て、胸の奥がぞくぞくするような快感を伴うだろう。差し出された耳朶が愛おしい。きっと、流れ出て皮膚を伝う血液までもが愛おしい。
ピアスホールと名前を付けられているものの、本質は傷でしかない。丁寧に保った、傷痕でしかない。そんなものを好きな人に開けたいと、淡く思うのは、ただ単に傷つけたいからというわけではない。その傷をつけられた時の痛みを思い出すたびに、その人はいつも私を思い出すだろう。私がつけた傷痕は丁寧に丁寧に残される。化膿しないように、塞がらないようにと気をつけられながら、好きな人の耳に長い間残るのだ。その傷痕がある限り、その人は私を忘れない。決して決して、忘れない。まるで、縛り付ける鎖のように。
それは悦び以外何物でもないだろう。
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