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「こんにちはー」
ピアスの話をしてから数日後、いつも通り放課後に美術室に行くと、部長はまだ来ておらず、藤江先輩がぽつんと一人で座ってケータイをいじっていた。
「こんにちは」
そう言って、邪魔だったのか、横髪を後ろに撫でた彼女の耳には先日と同じように銀のピアスが光っていた。
「部長まだ来てないんですね」
「うん。何か、月一のクラブ会議みたい。今の時期はそんなに議題もないはずだし、すぐに来ると思うよ」
言いながら、藤江先輩はメールの返信をまっているのかケータイから手は離さない。
「実は、ピアスを開けようと思ったんですけど」
その言葉に藤江先輩はケータイを鞄に入れてぱっとこちらを向いた。こちらを向いた時の笑顔が、心なしかいつもより華やいでいる気がした。
「ピアッサーとか、もう買ったの?」
「はい。家で開けようと思ったんだけど、俺の部屋、いつチビが飛び込んでくるか分かんないから」
チビというのは、まだ小学生の弟。いいかげん高学年だって言うのに、なんだか行動が子供っぽく、いきなり俺の部屋に飛び込んできて、背中に突進してくるので、おちおちピアスなんて開けてられない。
「じゃあ、ここで開ければ? どうせいつも私か部長しか来ないし、誰も邪魔しないでしょ。ほら、そこに鏡あるし」
先輩の言うとおり、俺もそう思ってピアッサーとか一式を持ってきた。家より学校の方が落ち着ける環境にあるというのはどういうことだ。
「消毒ってマキロンとかでいいんですか?」
「うん、大丈夫。どうせピアッサーの針は滅菌済みだから消毒しなくていいしね」
「あと、ネットで調べたら、氷で冷やすとか書いてたんですけど」
「あれね。冷やして麻痺させるんだけど、他の感覚もなくなるから、自分でする時はいまいち不安で、私は結局氷なしでやったよ。そんなにいうほど痛くなかった」
鞄に入れていた道具を出しながら、質問をすると、藤江先輩はいつものさばさばとした口調で答えてくれる。
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