番外編:そして家に帰ろう[初詣編]

2/14
前へ
/39ページ
次へ
夜道を歩く。 足早に。目的地へとまっすぐ向かっている。 人からはそう見えるように迷いなく足を運ぶ。 実際はただ時間を消費するためだけに何の感情も無く、右と左の足を規則的に前へ動かす。 そうやって俺はよく夜道を歩いていた。 「出ていらっしゃい。」 そう言われたから出て、家の前にただ立っているわけにもいかないから歩く。夜道というのは、時間を浪費する為の空間だった。 散歩と称し好き好んで夜道を歩く奴らの気が知れないと思っていた。 それがほんの数ヶ月前のことだ。 誰だってそうだろう。夜道の印象が変わるなんて、想像なんかするはずが無い。 すっかり暗くなった家への帰り道に、楽しかった事などを思い出しながら歩く。 そんな経験は、本当に数えるほどしかなかった。 なのに、今ではほぼ毎日、温かな想いを胸に留めたまま歩き、家々の明かりとともに漏れてくる楽しげな声に、温かな家族の団らんを想像することができる。そして家に帰り着いても胸の温もりが消えることはない。 「出ていらっしゃい。」 そう言われれば今だって出ていく。 けど、以前みたいに目的を装うことはなく、様々な事に想いを巡らせながらその時々のペースで歩く。 家に居ようが外に居ようが、考える事は同じだ。いや、むしろ歩きながらの方が、考えは広がっていく気がする。 そして今日、寒い中、身を寄せ合って夜道を歩く楽しさを知った。 今、人通りの多い道を地元の氏神様が祀られている神社へ、初詣に向かっている。 当然、年明け間もないこんな夜中に初詣に行くなんて初めてだ。 なぜわざわざ、人でごった返す中、一時間以上寒さに震えながら待ってまで、参らなければいけないのか。 皆が皆、そこまでして参らなければならないほど切実な願いを持っている訳でもないだろうに。 そんな風に思っていた。 けれど、人が多い為いつもよりゆっくりとしか近づけない神社への道も、大切な人と共になら楽しいものなんだと知った。 暗く寒い中並ぶなど酔狂な…と思っていたが、手をつないだり、腰に手を回したりなど、通常人前ではあまり考えられない接触も、皆が寒さに身を寄せ合って並ぶここでならそこまで違和感なくできる。 触れ合う場所から寒さに縮こまる俺の身体に温もりが伝わる。 同時に心まで温まっていくようだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加