第1章

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 僕達は黒川邸の人間二人分程の大きさの門の前に居た。僕達というのは僕と山田。…それと反バグの皆様方である。    今朝、未だに目を覚まさない山田を殴り起こして(これは健全なやり方とは思えないがこの際仕方あるまい)事の経緯を説明するのだが…なんて山田だろう?うんうん唸るばかりでちったも話を聞かない。それでも僕は健気に心の中で「頑張れ!頑張れ山田!」と応援しながら平手打ちを続けていた。 「…ちょ、ちょっとお前…誠に痛いんだけど…誠に…」 「話を訊くのだ山田!僕の話をお前は訊いておく必要があるのだ!」 「…いや、もう…痛いし…苦しいし…これが二日酔いか…頭脳が大分破損していてもう生きていけない…」 「そんな事では人間も死なないっ!立ち上がれ山田!」  …平手打ちをし過ぎたのだろうか…?泥酔の山田はぐったりとしてしまった。これでは瀕死の山田だ…!  それにしても早目に山田に事情を話して、反バグの会社に泊めて貰った事。山田も反バグの一員の扱いにされている事。…それより何より自分がバグであるという事を気付かせない事。たったこれだけの事なのに何故聞けぬのだ山田ときたら!嗚呼…。  そんな嘆きの哀川と瀕死の山田が潜む部屋の扉がノックされる。 「おはよう。起きているのかしら?入るわよ…」  そうしてコオロギが現れた。彼女は僕を見てニヤッと笑い、山田を見て言った。 「あら?どうしたの、彼?顔が少し赤いわよ?」 「お、おはようございます。いえ、山田が二日酔いで起きないものですから、平手打ちしていたら更にぐったりしてしまいまして…」 「ああ…そうなの?ゆっくり休んで居ても構わないのよ?…それとも何か大事な話でもあったのかしら?」  何なんだ?この女…。鋭すぎる。黒川以上に厄介だな…。 「…いえ…皆さんに泊めて貰ったお礼をしなければ。と思いまして…。ちょっとやり過ぎました…」  暫くの沈黙。コオロギと目を合わせられない。 「ふぅん…。それは良い心がけね。ふふ…これでは瀕死の山田ね。…いいわっ。彼を連れて来て。二日酔いに効く薬があるから飲ませてあげる。二日酔いに平手打ちしても悪化するだけだから」 「ありがとうございます…。こいつは僕より頑丈なのでその心配は無いと思います」 「そうだったわねぇ。二人ともバグのように強いのだもの」  そんな事を言うコオロギの後を僕は山田を連れ付いて行った。
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