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僕達が泊まっていた部屋がエコノミーであるとすればコオロギの部屋はファーストクラスと云った広さと、清潔さ、美しさがあった。整えられ、計算された家具の配置に僕は思わずうっとりしてしまった。
…うっとりしている場合では無かった。山田はコオロギから二日酔いに効く薬とやらを飲ませて貰った後、黒い瓶から(彼女はそれを気付け薬と呼んだ)を飲まされた後、突如苦しみ始めたのであった。
「コオロギさん?これはいったい…?」
「貴方、聖書読んだ事あるかしら?」
「?少しは…」
「では、ドン・キホーテは?」
「何度か読んでますけど…それとこれとはいったいどういう関係が…?」
「ドン・キホーテが騎士の物語から知り得た秘薬を作り飲むと、重症だった彼の身体は回復した。けれど、サンチョはもがき苦しむだけで上からも下からも汚物を撒き散らす大騒動だったわね?それで、わたしが何を言いたいのかと云うと『信じる者は救われる』という事よ」
そう言って彼女はしたり顔で僕に微笑む。
「…信じないものは?」
「さあ…?もがき苦しむだけじゃないかしら」
なんだか巧い事言って山田で実験しているだけではないだろうか?可哀想な山田だ…。だが、山田よ、バグが人間にバレたのは僕の仕業だが、こんな事態になったのはお前が酒を飲み過ぎたからなのだよ。お前の好きなドフトエフスキーにもあるだろう。罪と罰。罪を犯せば罰があるのだ。きっとこれがお前への罰であり、僕の罪はもっと重いのだろう。その時が来たら僕も甘んじて受け入れるよ山田。
そんな事を思っている内に山田は停止した。
「あら、停止したわね」
「…停止しましたね…」
汚物を撒き散らすなどはしていないが、その可能性も否めないと思いつつ恐る恐る彼の元へ近付いて行った。
目をカッと見開き口を大きく開いた表情は不気味だ。だが、それに対して紅く染まった頬からはまるで処女のはにかみを感じるのであった。
「…おい、山田…?」
僕は山田の頬を突いた。
その時、「いってぇんだよ!哀川!」と叫んで山田が僕を突き飛ばして起き上がった。
「おぉぉ…おぉぉいてぇ…!凄い夢見たわぁ…。あ?おい、哀川。何転がってんだ?」
「や、山田。蘇ったか…。うん、
良かったな」
「はぁ?何言ってんだお前?え…あれ?誠に頬が紅いんだけどぉ?い、いてぇぇ!夢じゃ無かったのかよ?いてぇ…」
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