2人が本棚に入れています
本棚に追加
蘇った山田は僕哀川に胸倉を掴まれながら、平手打ちをされ続ける夢を見たと言う。何か僕が言っているのだが、自分の身体の言う事が効かずろくに反応する事も出来なかったらしい。その後暫くして口の中へ聖水のような物が流し込まれると、みるみると身体が楽になっていくのを感じたが、その後に汚水のような物が口の中に流し込まれるとそれが激変したと言う。天国から地獄へ堕ちる苦しみというのはきっとこのような物に違いないと、山田は確信したと言う。
その話を聞いていたコオロギは言った。
「山田くん、それはきっと正夢というものよ」
「こ、これが正夢…!正夢怖ぇ…。って誰?黒川…じゃねぇよな?」
「山田…!この人はコオロギさんと言って、お前を介抱してくれた人で…」
コオロギは僕の前に手を出して言った。
「哀川くん。わたしから説明するわ。山田くん、貴方と彼はね、昨晩バグに襲われてわたし達反バグ組織の所に逃げ込んできたのよ。ねぇ?哀川くん?」
「いや、それは違…」
僕の口を抑えて話を続ける。まるで黒川だ…。
「それで、負傷した貴方をわたしが介抱していたのよ。覚えてる?」
「…バグねぇ…。酒を飲んだ後の記憶がねぇんだよなぁ…哀川、そうだっけ?」
静かにコオロギは口から手を離す。
「あ、ああ…。そうだよ。バグに襲われたんだ。バグというのは、僕達が化物と呼んでいる物の名称だ」
そう言って山田をじっと見た。意味が伝われば良いが…。
「ふぅん…。そっかそっか。それはコオロギさんとやら。お世話になりました」
山田は丁寧にコオロギに向かって頭を下げたが、彼女は山田に見向きもせず、釈然としない顔で僕を見る。何故僕が彼女の話に合わせて嘘を吐くのか、分からないからだろう。何でも分かる必要なんて無いのだ。分かる事で事態が悪化する事だってあるのだから。少しは黙っていて欲しいのだがコオロギは止まらない。
「ところで、黒川さんって誰かしら?」
「え?」
「さっき言ってたわよね?黒川って。誰かしら?友達?彼女?」
僕は山田の隣に走り寄り言った。
「僕達と同じ生き残りです!実は女の子二人を残して来ていて。その事も気になって山田を起こしていたのです」
「そうなの?山田くん?」
「お、おう。そうだなぁ…あいつら心配してるだろうから早く帰らねぇとなぁ~…」
「そう。でも、二人では危ないだろうからご一緒するわ」
最初のコメントを投稿しよう!