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まだ朝日が気持ち良く感じる夏の朝。化物二人はスーツ姿の美男美女に囲まれていた。
一人は綿棒が入った箱を数十個腰周りに装着して、がはは。と笑っている。
一人は太鼓を首から提げて両手にバチを持っていて、その笑う人を冷たい目で見ている。
一人はライフルを担いでおり、僕に向かって「残念ながら弾は切れてしまった」と嘆く。
一人はナイフを僕に突き付けて、「その女達は可愛いのか?あぁ?」と叫ぶ。
この愉快なスーツ者達に囲まれて楽しい気分にならぬのはおかしいのだが、山田は少し離れた所で何処か気の抜けた顔で宙を眺めていた。
僕はそんな山田に近付いて小声で言った。
「(どうしたというのだ、山田。先程から元気がないよ)」
「あ?そうかぁ?」
「(これから巧くいくか心配何だろう?大丈夫。何とかするさ)」
「いや、おれはお前自身が心配なんだよ」
「(僕が?どういう事?)」
「お前は…」
と、山田が何かいい掛けた所で、佐藤さんが「コソコソ話すなや!わいに相談しぃ!」と叫んで走って来て、僕達の首に両腕を回して言った。
「なんや、なんや、少年達。悩みか?悩みがあるんやろ?なんや、言うてみぃ?あれやろ?恐いんやろぉ?バグ仰山来たらどないしょどないしょ!ってなぁ。安心しぃ。わいらがもうちょいちょいっと捻ったるからな。がはは」
あはは…。と、僕も山田も笑って進み始めた。遠回り、出来るだけ遠回りしていく様に。
暫く歩くと近くで、トントントンと云う音が聞こえた。見回すと、コオロギが太鼓を叩いていた。
「お、始めよったな」
と、佐藤が箱から綿棒を取り出してニヤニヤしている。
「君らも準備しときぃ。くるで」
その声を合図に泰三は肩からライフルを下ろして、銃身を手に持ち構える。北村は相変わらず弄んでいたナイフを構えた。
「お、来よったわ」
佐藤の目線の先を見るとバグが居た。頭部が蟷螂のようなバグ。ゆっくりと近寄ってくる。
「哀川くんをしっかり守るんやで」
佐藤が言い終わらないうちにそれは僕の目の前から消えた…。
「哀川くん。ちょっと話があるんだけど」
後ろを振り返ると、真後ろで蟷螂頭は女性の声で僕に話しかけていた。知らない声だが…。
「綿棒真剣!」
そんな叫び声が響いたかと思うと、蟷螂頭に佐藤の拳が突き刺さり砕けていた。紫色の汁を全身に浴びて不快だ。
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