182人が本棚に入れています
本棚に追加
「河南尹(かなんいん)の………」
王蝶が呟く。それを聞いて、張蝉もやっと理解したかのようにギョッとした。
河南尹とは、この洛陽を含めた河南郡の統治者ではないか。
「そんな人が、なんで」
こんな場末の路地裏には似つかわしくない、高貴な人間だ。
「要求はなんだ」
丁布の問いかけに、袁術が満足げに微笑む。
「話が早いの」
「わざわざ、おれたちが囲まれたのを、その時点で助太刀するわけでもなく見ておいて、試しに一人逃がしてみりゃ、わざわざ討ち取って見せびらかしてくる」
丁布の言葉に袁術は笑みを深くする。
「おれらに恩を売って、何をさせたいんだ」
丁布が睨みつけてくるのを、袁術は嬉しく思った。
「さすがは丁騎都尉殿の息子だの。良い眼じゃ。お主には国家の大事のために動いてもらいたいんじゃ。近々行う策にどうしても、札が一枚足りん。その一枚に、お主がなってほしいんじゃよ」
最初のコメントを投稿しよう!