182人が本棚に入れています
本棚に追加
その告げられた、予想だにしない大きな話に、丁布は戸惑いを覚えた。
話が大きくなりすぎている。
丁布はそう感じた。
自分の判断の埒外の話だ。
丁布は、父、丁原に拾われて、生活が一変した。
食う物にも着る物にも、寝る場所にすら困らなくなった。
あの出会いがなければ、決してこんな暖かな場所にはいられなかった。
丁原が、自分の力とするために丁布を拾ったのはわかっていた。
だから、丁布は決めたのだ。
父の力になると。
王蝶と行動を共にするのは、彼女の父、王允(おういん)が、隠居してなお、高名を馳せる名士だからだ。
同時に、張蝉とも行動を共にするのは、王蝶と親しくなりすぎて、周りから警戒されないためだ。
市中の警護を買って出て、名前を売っているのは、いざいざ、父から表舞台に立つことを要請されたときに、周りを納得させることができるからだ。
その一方で、近所の年少の子どもたちと行動していれば、周りの眼は、子どもの遊びとして必要以上に事を荒立てようとはしないだろう。そのためだ。
友人を作るのにすら、日々の挙動ですらそこまでの配慮をした。
すべては父のためだ。
父のため。父のため。父のため。
今、袁家と繋がりを作るのは、それこそ父の道の妨害になるかもしれない。
高名な家との繋がりは、それが貸しを作ることであっても、地方上がりの一臣下には避けるべき大波であった。
「一度持ち帰り、父に判断を仰いでみましょう」
判断をするのはおれではない。
おれは父のための道具だ。
そんな覚悟を持って、確かな意志を持って、丁布は袁術の眼を見つめ返した。
最初のコメントを投稿しよう!