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「いや、判断をするのはお主じゃ。丁奉先」
しかし、袁術はその手を緩めない。
悲しい、男だと思った。
器が大きく、そして歪んでいる。
自身の運命を、揺らがずに受け入れている。人に使われ、使い潰されるのを良しとしている。
そんな、丁布の根底にあるのは、『諦め』だ。
自分に恩を与えてくれた相手が、丁原だった。
自分の父となった男が、丁原だった。
その男が、大人物ではなかった。
袁術は歯噛みをする。
丁布という人間の器は、そんな子役人の人足のような、そんなちゃちなもので終わっていいはずのものではない。
これでも人を見る目には自信があった。
十にも満たない幼さで、政争を潜り抜け、人の悪性を見つめ続け、数多の人間を利用してきた。
そうしなければ今の地位には立てていない。
そんな、狡知の塊のような自分が、思うのだ。
この少年を埋もれさせるのは勿体無い、と。
(なれば、妾はお主の足を進ませよう)
「落ち着いて考えてみよ。お主が父上殿に恩義を感じるのはわかっておる。こうして誘いをかける前に、ある程度は見聞きした。隠匿しているとはいえ、名士の王翁の娘と関係を持つは、たしかに父上殿の為になろう。しかしの。そこの矢傷を負った娘は、代わりがいたであろう。それを受け入れたはお主じゃ。それは、お主の意志じゃろ? お主は父上殿が全てと思っておるかもしれんが、お主は既に父上殿の手を放れて判断する力を持っておる」
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