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「もし」
しかし、なにも返さないのは決して正しいことではない。
袁術は誘いの手を伸ばしたのだ。
圧倒されて、それで終わるのか、と。
「もし、おれが力を貸して、コイツらを守れるのなら」
そんな挑発をされては。
「手を貸してやる。ああ、貸してやるさ」
受けるしかないではないか。
いやそうではない。
彼女らを守るためなら。
そして、父の邪魔にもならないなら。
そこまでの条件をつけられて、それでもなお、断るという選択肢もあったはずだった。
つまるところ、これは、丁奉先という少年が彼女を気に入ったというだけの話だ。
力を備え、それに足る器を備えた少年は、幼く、そしてだからこそ、狡く賢く生き抜いている少女につくことを決めたのだ。
丁布は手を差し出す。
それを受けて、袁術もその手を握り返した。
「よろしくの、ほーせん」
父の恩義を脇に置き、友との一時の安楽を端に避けて。
そして、丁布が選び取ったのは、自身の力がどこまで通用するのか。そんな、狂った武者震いだった。
「ああ。おれはどうやら、暴れたかったらしいぜ。あんたが用意する戦場とやら。楽しみにしてるぜ、のじゃ姫」
「『のじゃ姫』ってもしや、妾のことかの?」
ここに、こうして、この先十数年に渡って、着かず離れずを繰り返す最強の少年と最狡の少女の同盟関係の発端が、形作られた。
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