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雨が降ってきた。
雨は都合が良い。
襲撃を悟られずに近寄ることができる。
袁術の配下の男だった。
性を閻(えん)、名を象(しょう)、字を智形(ちけい)といった。
容貌の暗い男で、なにやらぶつぶつと呟いている。
「まったく、姫様にも困ったものだ。この私に何の相談もなく紀や張を動かすし、あまつさえ、丁建陽の養子如きを策に取り入れるなど。ああ、まったく。姫様の周りは脳筋だらけだ。この様な時こそ、力ではなく、柔軟な知略こそが大切だというのに。知略といえば、この閻智形であるというのに。ううむ。私には確かに足りないものがある。紀のように袁家縁の将というわけでもなければ、張のようなオカマでもない。足りないのはやはり、個性か」
(((………いや、あんたもなかなか個性強いから)))
ぶつぶつと呟く閻象に、周囲の兵が内心で突っ込む。
「そもそもから言って、どいつもこいつも無能すぎるのがいけないのだ。なぜ私がこんな前線に出なければならない。それこそ、脳筋の出番ではないか。私には姫様の傍に侍り、姫様のために献策を行う役目がある。それが、それこそが私の役目のはず。それなのになぜ、ガキとデクとオカマなどという際物どもにその場を奪われ、尚且つ、危険な賊の捕獲任務などを任されなければならないというのか。所詮奴らなど、姫様におべっかを使うことしか能がないというのに」
(((いや、そんなんだから、あんたは姫様に嫌われてんだよ)))
遂には仲間すらこき下ろし始める閻象に、再び、兵たちの心の声が一つになる。
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