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「―――さて」
しかし、不意に閻象の纏う空気が変わった。
「下らぬ下賤の賊徒の末端も末端の諜報部隊を蹴散らすという、凡百の戦にも劣る仕事だ。お前ら。しくじるでないぞ」
(((………コイツのために戦いたくねーなー)))
「さぁ、行け。ここで武功をたて、次の策はこの閻智形が組み立ててやろう!!」
(((………姫様のため。姫様のため。姫様のため)))
「とつげ―――ぶべっ!?」
号令をかけようとした閻象を、何者かが蹴倒した。
「いやさ」
閻象を蹴り倒したその影は、包囲中の長家から出てきたものだった。しかし、誰も反応できない。
「んな大声でベラベラ話しながら行軍してたら、そりゃ事前に気付けるって」
包囲を完了する前に、調子に乗った閻象が口上を垂れ流したために、馬元義に脱出する時間ができ、更に、全軍に進発の号令をかける一瞬の隙をついて、包囲を突破する機会も与えてしまった。
取り残された兵たちは慌てて反転しながら、皆、一様に思う。
(((………だからあんたは出世できねぇんだよ!!!)))
夜の逃走劇は始まったばかりだった。
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