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「見失ったぞ、まったく」
閻象はゴチる。
兵は全員、賊の捜索に向かわせた。
思い切り蹴られた頬が痛い。
苛立たしげに自分の頬を撫でたときだった。
「動くな」
チクリと鋭い痛みが背中に走り、閻象はギクリと背筋を強ばらせた。
「な、な」
「余計なことを喋るな。聞かれたことにだけ答えろ。そうすれば、命は保証する」
冷たい声に、閻象は自身の不明を悟った。
兵は今、近くにいない。
「主は誰だ」
「ふ、ふん。バカめ。答えるとでもあぎゃあ!」
馬元義は少し強めに短剣を閻象の背に刺す。じわりと閻象の背に血が滲んだ。
「立場を理解しろ。主は誰だ。どこにいる」
「そ、それを聞いてどうする!?」
「案内してもらうのさ。仲間が捕まった。それを返してもらう」
「バカな。案内などするものか!」
「―――そうか」
馬元義は、背に押し当てていた短剣を引くと、閻象の右腕を刺し貫いた。
「あっぐあぁぁぁ!?」
「兵を集めろ。そしてその内の一人の兵装を寄越せ」
「………っ」
なぜ、自分がこんな目に。
閻象の目に涙が浮かぶ。
しかし。
「―――殺せ」
閻象にも誇りがある。
こんな低俗な賊に利用されるのを良しとするほど、彼の自尊心は低くはなかった。
「―――」
「ぎ、あぁぁぁぁ!!」
再度、彼を襲う腕の痛み。
「見上げた根性だ。その根性に免じて、簡単には殺さない。次は指を切り落とす。五本の指を一本ずつだ。その次は左手の指だ」
冷たい声で淡々と言う。
「こ、殺せ」
「ああ、殺してやる。いたぶり尽くしてからな」
「すぐに殺せ!!」
「断る」
「殺して下さい!!」
「いや、言い方の問題とかじゃないから」
「………」
「じゃ、小指から「兵を集めるので止めて下さい!」早くしろ」
閻象はボロボロと醜く涙を流しながら、従うしかなかった。
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