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突撃。勢いをそのままに、目の前の槍兵で作られた壁に突き進む。
「迎撃!!」
黄巾軍がその声と共に、槍を猪貢に向かって構えた。
槍が迫る。その槍めがけて、猪貢も槍を振るった。
真っ直ぐに猪貢を迎撃せんと向いていた槍先が猪貢の振るった槍に弾かれて逸れる。
その瞬間をついて、兵の壁に分け入った。
手綱を左手で繰り、馬の進路を誘導する。同時に右手に持った槍を振り、突き、刺した。
武器を持っていない左から、斬りかかろうとする影が見える。
手綱を左に引き、馬の首を振らせて相手に当てる。怯んだところを、喉に槍を突き刺した。
脇腹に衝撃を感じる。見れば槍が突き立っていた。しかし浅い。しかも、敵の手は槍から離れている。脇腹に刺さった槍を途中で折り、ささくれ立った槍の柄を、敵に突き立て返す。
相手は驚いたように口を開けており、その口の中に突き込んでやった。
視界の端に、自軍の兵たちが見えた。まだ生きている。
馬の足は止めない。馬も、それがわかっているように、足を止めず走ってくれる。
何度目かの刺突の際に、槍が抜けなかった。仕方なく、槍を手放す。
ここぞとばかりに槍を突き込まれた。致命傷をかわし、突き出された槍をかすめ取る。
視界の端の部下たちは、数を減らしながらも、まだ走っている。
新しい槍は粗悪だった。
すぐに折れ、代わりの槍をかすめ取る。
そうしている内に、黄巾兵は猪貢に近づかなくなった。
(―――それが怖れだ。戦は怖いだろう。その恐怖を刻めよ)
猪貢はニヤリと笑って尚も走る。
「マンセー! 敵ながら、お見事です。チョウマンセー!!」
不意に声が聞こえ、猪貢の体が宙に浮いた。
馬の首が、馬の体と分かたれ、宙を舞うのが見える。
地面に落ちる際に受け身を取り、声の主を見る。
「………お前は」
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