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「ははは。はははははは。どうですか、猪太守殿。アナタは見下していた私に討ち取られるのですよ。卑怯と言いますか? ですがこれが結果です。私を、私たちをバカにしたアナタ方が、私に負けるのですよ。はははははは―――」
「お前は何を言ってるんだ?」
「―――は?」
血塗れの、体にヤマアラシのように槍を生やした猪貢が呆れたように言う。
「まさかとは思うが、そんな被害妄想の八つ当たりでこんな大それたことをしでかしてるのか、お前は」
「なん―――ですと?」
猪貢はそう返してくる張曼成の顔に、なんだか虚しさを覚える。
しかし。
虚仮の一念、岩をも通す、という言葉がある。
実際、張曼成はその執念でもって、南陽郡の郡治を落としてしまった。
(もう一働き、するかね)
張曼成の意気は、ここで挫かねばならない。
自分に残された時間が、もう幾ばくもないのを感じながら、猪貢は血塗れの顔を上げる。
「いいか、張曼成。俺たちは別に、あんたたちを馬鹿にしたことなんざ、一度もない。というか、戦場で命張ってる俺たちに、そんな暇、ねえよ」
「―――な、何を」
「あぁ、それからな。今回の作戦、見事だったぜ。卑怯だなんて、冗談じゃねぇ。してやられたよ。『俺は、お前を、認める、ぜ』」
(っあー、もう、駄目か。まぁ、これで楔は打ち込めただろ。あー、くそ。あの世で、大将に、怒られるな。まんまとしてやられたもんな。真直。すまん。先、逝くぜ―――)
猪貢の体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
後には、呆然とした張曼成が残された。
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