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「猪太守はすごかっただなぁ。危うく、うちの総司令がやられるところだっただ。あの人たちが、命をかけてる間、アンタらは何をやってただ?」
「わ、我々の本業は政治だ! 戦の趨勢は我々の責任ではない! 太守殿の命令だったのだ。我々は反対した!!」
一人の文官が声高に叫ぶ。
間違ったのは自分たちではない。間違ったのは、自分たちの上司だ。だから自分たちに責任はない。
そんなことを言う文官に、趙弘はめまいがした。
「治安の維持ができず、民による開城を行われ、それで自分たちに非がないって言うだか?」
「あれは民たちが勝手に行ったことだ! 我々の指示を聞かずに、民たちが勝手に―――」
「もういいだ」
趙弘は刀を抜いた。
上の人間が勝手に動いた。だから自分たちに非はない。
下の人間たちが勝手に動いた。だから自分たちに非はない。
素晴らしい責任転嫁だ。
そして、彼らはそれを間違いとは思っていない。
目に、まだ希望を残している。
自分たちに非はないのだから、許される。
そう、思っている。
城内から猪貢を支援するでもなく、民たちを守るでもない。
(………これが、『今』か)
趙弘の目が、怪しく光る。
(こんな奴らのために、健土(けんど)は畑を潰されたのか。こんな奴らのために、伯考(はくこう)は使い潰されたのかっ!!)
「中方長の名の下に命ず! 全兵全官の区別なく、皆殺せ!!」
無念と嘆き、悲しむ友たちの幻影を目に写しながら、趙弘は剣を振るった。
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