四幕 ⑧戦利品

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 宛城の全兵士と全文官は徹底的に皆殺された。  しかし、それを非道と断じる民はいなかった。  それもそのはずだ。  文官も、兵たちも、民の目の前で責任逃れの言い分を垂れ流したのだ。  最早、誰一人として、この国に忠誠を誓う者などいなかった。  後漢は、自分たちを守ってはくれない。  ならば、どうすればよいのか。  民たちは、黄巾のために、食料を渡し、城を明け渡し、更には、己の頭に黄布を巻いた。  『蒼天、すでに、死す』  自分たちの生まれ育った国は、すでに死んでいた。  今あるのは、国の亡霊だ。  その国を治めているのは、亡者たちだ。  そのことをはっきりと感じ取った民たちは、しかし、新たな光を感じ、涙した。  これは聖戦だ。と、誰かが言った。
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