幕間 その四 死国志演義

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 薄暗い室内には何人かの男がいる。その男たちが、まだ年若い二人の少年と少女の譜を食い入るように見ていた。  場所は雍州(ようしゅう)扶風郡(ふふうぐん)?県(びけん)。  扶風郡は洛陽がある司州の西隣りの州である雍州にある郡で、右扶風郡(うふふうぐん)と呼ばれることもあった。  その室内にいる少年の名は姓は猛(もう)、名は達(たつ)、字は子敬(しけい)といい、年は十六歳。対する少女は姓は法(ほう)、名は正(せい)といい、まだ八歳の少女だった。  しかし、この場にいる人間で、彼女を幼女と侮る者はいない。  それは、なぜか。  「先手五十二手、劉僻撤退を選択」  「後手十七手、孫司馬、拠点確保を優先、だろうな」  「そうだね。たぁ、青洲編、おしまい」  「おう。さすがだな、セイ。まさか、女を並べて肉盾にするとかそんな発想が八歳児から出てくるとは、兄ちゃん恐怖でしょんべんちびりそう」  「たぁこそ。劉僻が偵察に来た周と孫伯符を逃がすとは思わなかった」  「まぁなぁ。劉僻としては、ここで勝ちすぎてもメリットほとんどないですしおすし」  この狭い室内にいながら、二人が作り出す盤上の譜面は、遥か万里の彼方を見据えてきたかのように、遠くの戦局を的確に表していた。  孟達が将の心理面を分析し、法正がその心理面を考慮した状態で最善手を描き出す。  こうしてこの二人は、見てもいない戦場の戦の推移を、明確に描き出していた。
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