幕間 その四 死国志演義

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 「な、南陽は、どうでしょう?」  勝負の帰着に達成感を感じている二人に見学の男から声がかかる。  それを聞いて、二人は顔をしかめた。  自分で考えろ、早く帰れ。  そう言いたいのを孟達はぐっとこらえる。  「………じゃま」  「へいへいセイちゃーん。俺も我慢してんだから、声に出すのはやめよーね」  溜息を吐きながら孟達はチラリと横を見る。  大量の金が積まれていた。  これで前金。  ここまではこちらの力を見せるのが目的だった。  これで納得した男たちは、南陽郡がどうなるのか。そしてこの大反乱はどうなっていくのかを問うているのだ。  二人は家の中に引きこもり、延々と様々なゲームに興じていた。  食事も気が向くまで取らず、日の光を浴びることもない。  二人の肌は白く、そして、痩せている。法正などは、その年齢を差し引いても身体が小さい。  そんな二人が生きていられるのは、簡単なアドバイザーとして周囲の人間にアドバイスを行い、その報酬としていろいろなものを仕入れてもらっているからだった。  人の心が読めすぎる孟達と、頭が良すぎる法正。  二人は人間の中で生きていくには聡すぎて、そして、二人だけで生きていくには弱すぎた。だからこその折衷案。極力他人を招き入れず、二人だけで生きていく。  そう決めていた二人のもとに、男たちが現れた。  金を渡され、戦の趨勢を教えてほしい、と頼まれた。断ろうとしたが、前金として渡された金額の大きさに、つい、転がされてしまった。  しかし、一度始めたゲームを降りる気はなかった。  もちろんそれだけではない。  法正が周りを疎ましく思うほどにゲームに集中し出している。  黄巾賊と後漢軍の大戦争。  黄巾賊の首魁、張角と、後漢軍の象徴、霊帝。  その二人が描く絵がとても綺麗だった。  「たぁ」  「ああ。すげえよな」  「うん」  絵を描く天才に対する羨望が二人の目に浮かんでいた。
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