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「先手七十手、韓忠進軍」
「後手二十二手、波県令戦線放棄」
「波県令、放棄、するかな?」
「するさ。あんな状況で、人は動けない。忠義芯よりも、恐怖と絶望が人の勇み足を縫い付ける」
そこに、男たちの放っていた斥侯が戻ってきた。
その斥侯が述べた内容と、二人で作り上げた盤面がぴたりと一致する。
室内にどよめきが響いた。
「たぁ、すごい」
「むっふっふ。な? 俺の勝ちだ」
「たぁ、どうして、波県令が動かないってわかったの?」
「はっはー。セイにはまだまだ負けないぞぅ。人の心理面での読みあいではまだ俺に分があるな!」
「人の心、不確定要素、多すぎ。それ読み切れるの、たぁだけ」
「わっはっは。………、セイちゃん。そんな素直に褒められると、さすがに恥ずかしいのデスガ」
「たぁ、凄い。たぁ、カッコいい。たぁ、大好き」
「おう。俺も大好きだよ、セイ」
一呼吸を吐きながら、二人でお互いを褒め合う。
そんな二人を促すように男たちが目を向けてくる。
「………………で、次だが、涅陽と棘陽の県令は、『動くぞ』?」
「だいじょうぶ。たぁ、黄巾は軍を、消せる、よ?」
「ん? 軍を、消す。………あぁ、なるほど。そういうことか」
「ん。これで、黄巾軍は涅陽と棘陽を、圧し潰す」
「はっはー。セイ。そうはならないさ」
「むぅ。また、違う? これ、最適解なのに」
「いいか、セイ。最適な共通解は確かに存在する。けどな。共通解を超えた最適解を指し示すのが人間の業だ。その最適解は個々人によって千差万別。それを読み切るのが、俺の仕事だ」
「そんなの、普通は、無理。やっぱり、たぁは、セイの自慢のたぁ」
「はっはっは。いやいやいや。お前の最適解は本当にすごいんだぞ? お前の言うとおりに駒を動かせば、天下をとれる。天下だけじゃない。海の向こうもとれるし、星の外もとれる。この世にできないことはまるでなくなる。理論上は不老不死さえも立証したんだからな、お前は」
「でも、立証、たぁに、否定、された、よ?」
「人には心があるからな。どんな最高の共通解でも、心が拒否をし、理が通じず、論が通らない選択をする。それが人間だ。そんな愚か者が、人間だ。だから、セイの立証は通らないんだ。それが一番正しいのにも関わらず、な」
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