幕間 その四 死国志演義

24/26
183人が本棚に入れています
本棚に追加
/516ページ
 「先手七十手、韓忠進軍」  「後手二十二手、波県令戦線放棄」  「波県令、放棄、するかな?」  「するさ。あんな状況で、人は動けない。忠義芯よりも、恐怖と絶望が人の勇み足を縫い付ける」  そこに、男たちの放っていた斥侯が戻ってきた。  その斥侯が述べた内容と、二人で作り上げた盤面がぴたりと一致する。  室内にどよめきが響いた。  「たぁ、すごい」  「むっふっふ。な? 俺の勝ちだ」  「たぁ、どうして、波県令が動かないってわかったの?」  「はっはー。セイにはまだまだ負けないぞぅ。人の心理面での読みあいではまだ俺に分があるな!」  「人の心、不確定要素、多すぎ。それ読み切れるの、たぁだけ」  「わっはっは。………、セイちゃん。そんな素直に褒められると、さすがに恥ずかしいのデスガ」  「たぁ、凄い。たぁ、カッコいい。たぁ、大好き」  「おう。俺も大好きだよ、セイ」  一呼吸を吐きながら、二人でお互いを褒め合う。  そんな二人を促すように男たちが目を向けてくる。  「………………で、次だが、涅陽と棘陽の県令は、『動くぞ』?」  「だいじょうぶ。たぁ、黄巾は軍を、消せる、よ?」  「ん? 軍を、消す。………あぁ、なるほど。そういうことか」  「ん。これで、黄巾軍は涅陽と棘陽を、圧し潰す」  「はっはー。セイ。そうはならないさ」  「むぅ。また、違う? これ、最適解なのに」  「いいか、セイ。最適な共通解は確かに存在する。けどな。共通解を超えた最適解を指し示すのが人間の業だ。その最適解は個々人によって千差万別。それを読み切るのが、俺の仕事だ」  「そんなの、普通は、無理。やっぱり、たぁは、セイの自慢のたぁ」  「はっはっは。いやいやいや。お前の最適解は本当にすごいんだぞ? お前の言うとおりに駒を動かせば、天下をとれる。天下だけじゃない。海の向こうもとれるし、星の外もとれる。この世にできないことはまるでなくなる。理論上は不老不死さえも立証したんだからな、お前は」  「でも、立証、たぁに、否定、された、よ?」  「人には心があるからな。どんな最高の共通解でも、心が拒否をし、理が通じず、論が通らない選択をする。それが人間だ。そんな愚か者が、人間だ。だから、セイの立証は通らないんだ。それが一番正しいのにも関わらず、な」
/516ページ

最初のコメントを投稿しよう!