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「随分とまあ、冷静なのね」
言いながら、焉藤シュウカはこちらに背中を向ける最上ヤスユキに近付く。
「一応戦場は潜ってきているからな。吸血鬼が出たくらいで驚いてたら生き延びれんよ───っ!」
振り返る最上ヤスユキの腰から、一筋の光が放たれた。
それは刀身から溢れた光。最上ヤスユキは隙を付いて首を狙った一撃だったが、
「……あら、気付いてたのね」
さも当たり前のように止められた。こちらを馬鹿にするかのようにスレスレの所で止めている。しかも右手の爪で。
「いつから気付いてたの?」
「お前が部屋に入った時からだ。明らかに雰囲気が人間のそれではなかったぞ?」
「流石はクラスレジェンド、と言ったところかしら? まあいいわ」
そう言って、焉藤シュウカは右手に力を入れて刀身を押し返し、相手との距離を取る。
「死ぬ準備は出来てるかしら?」
「お前こそ身辺整理は平気か? こんな場所に姿を見せてただで帰れるとは思わないよな?」
「これはご丁寧にどうも。でも逃げなくていいの? まだ生きる伝説の称号貰ったばかりなんでしょ?」
「まさか吸血鬼に心配されるとは思わなかったぞ。安心しろ。俺の眼は相手の力量を測れるだけじゃない」
「あらまぁ。それは気を付けないとね」
☆
俺の視界は、黒で埋め尽くされていた。
何が起きているのか全く分からない。……いや、理解したくない。この現状から逃げたい。夢だと思いたい。
認めたくない。
人が
死んでいる
今もなお
沢山の
簡単に
呆気なく
小虫のように
殺されている
たった1人の吸血鬼に
吸血鬼は逃げ惑う人達に狙いをつけ、生を奪うのを楽しむかのような奇声を上げていた。
「ははははははーーーっ! 逃げろ逃げろ! もっと悲鳴を上げて俺を楽しませろ!!」
聞こえて来るのは、肉が裂き骨が絶たれる残酷な音と耳を塞ぎなくなる無情な断末魔。
そして、儚く散る命の灯火。
光が消える瞬間。
「おぅっ……」
俺は床に座り込み、恐怖に怯えて口を抑えていた。気分が悪い。内臓が出てきそうだ。
いったいどれだけの人が死んだ? 吸血鬼にどれだけの人が殺された? 俺も殺されるのか?
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