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「因みにあれね。マルーシ街を半壊させたの俺だから。でね、今からお前ら死ぬからそのつもりで。大丈夫大丈夫! 一瞬だから! 痛いの一瞬だから!」
白髪の男性からの唐突な死の宣告。
この男に恐怖は覚えたのは事実だが、そんな話を信じるほど俺は馬鹿じゃない。そもそも本当に吸血鬼か? 実物を見た事ないから判断出来ない。
一応吸血鬼の特徴として、白髪に加えて真っ白な肌と赤い眼ってのは聞いた事がある。
自分の持つ情報と前でケラケラと笑う白髪の男性を比べてみるが……まあ一致しているな。一致してるけど、献血したから体調が優れないのかもしれない。
そう楽観的な方向に頭を切り替えると、黄色いシャツのスタッフが自称吸血鬼の肩を叩いた。
「困るよ君。静かにしてくれないと。座っててくれないかな?」
「たははー! こいつは参った。まさか信じてない? よし分かった。どうせこの会場にいる奴らは見せしめで皆殺しにするし、お前からにしてやるよ」
「だから困るって。そういう物騒な発言は控えてくれないかな?」
スタッフは頭を抱えながら自称吸血鬼に座るよう促すと、
「てか、人間ごときが俺に触んなよ」
自称吸血鬼の腕がムチのようにしなり、スタッフの頭が弾け飛んだ。
頭を失った胴体は重力に身を任せて糸が切れた人形のように倒れ、生々しい音を響かせる。
それはあまりにも突然で、理解が出来なくて、頭が真っ白になって……え、なんだこれ? この前ライブで事件が起きたばっかりなんだよ?
……なんだこれ?
……死んだ?
……今、死んだんだよな?
「き、きゃあああああああああああああ!!」
「お、おい! 頭が! 今頭が!」
「やべーって! 逃げよう!」
「吸血鬼だ! 吸血鬼が出たぞ!」
会場は一瞬で混乱に陥った。スタッフ、看護師、参加者、皆が皆蜘蛛の子を散らすように吸血鬼から逃げる。出口に向かって。
ヤバい……足が震えて動かない。嘘だろ……。なんでだよ。なんで動かないだよ。
「おーおー逃げろ逃げろ。無様に逃げる姿はお似合いだぜ。まあ逃がさないけどな。───≪デッドエンド≫」
吸血鬼が魔法を唱えた。行く手を遮る魔法だ。
これが意味するのは───
「な、何よこの透明な壁は!?」
「出れないじゃないか!」
「どういう事だよ!」
この会場からは逃げられないという事だ。
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