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こんな目に合うためにここに来たんじゃないのに……俺はただ、自分を変えるきっかけを探しに来ただけなのに……あんまりだろ……。
俺は自分の震える肩を抱き、床に頭を擦り付ける。
なんでこんなに理不尽なんだよ。俺がそんなに悪い事したのかよ。
可笑しいよ絶対……。
「やあこんにちは。隠れんぼは終わりだぜ?」
不意に聞こえてきた、聞きたくなかった声が、俺の脳に大震を与えた。
凍り付いた背筋を少しずつ伸ばして顔を上げると、俺の何度も擦って赤くなった眼が、吸血鬼の殺意に満ちた血の瞳を映した。
映してしまった。
「あ……ああ……」
恐怖が、目の前にいる。吸血鬼の白い手が俺の喉元に伸びてくる。
……そうか。やっと分かったよ。俺はこれから……
「早速だけど、死ね」
死ぬんだ。
俺は自ら視界を閉ざし、死を受け入れた。
「───ぐおっ!?」
その瞬間、何が割れた音がした。ガラスが割れたような音。
急いで目を開くと───今まさに、吸血鬼が俺と反発するように吹き飛んで行ったところだった。
そのまま床を転がりながら向こうの壁に激突。だが吸血鬼は蚊に刺されたぐらいの様子で立ち上がり、軽く首を回して顔を歪める。
「……何しやがった?」
そんなの、俺が知る訳ない。寧ろ俺が聞きたい。
……ふと、腰辺りに違和感を感じた。腰辺りというか、ポケットの中から。
何かが頭を過ったのはその時だ。
『───万が一の事もありますので、護身用にお持ち下さい』
藁にもすがる思いで小さなポケットをまさぐって違和感の正体を探る。
『───私共の魔法から凡庸性の高いものを30種程を封じ込めてあります』
ポケットの中をひっくり返して財布を取り出す。
『───魔法名を唱えれば詠唱無しで即座に行使できます』
財布を開くと、ルシファーに貰ったお守りが淡く輝いていた。
絶対使う機会無いだろ、と思って記憶の片隅に置いておいたから忘れていた。このお守りがあれば、吸血鬼に抗えるんじゃないのか?
その輝きは、絶望の淵にいた俺に一筋の光を照らしてくれた。
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