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俺はお守りを強く握り締め、顔に緊張を走らせて眼前の標的を睨む。
今思い出したが、このお守りに込められた魔法の1つに自動で発動する防御魔法があったな。ガラスが割れたような音がしたのはその為だろう。
まあ防御魔法だから吸血鬼にダメージを負わせる事は出来なかったが、吸血鬼をあれだけ吹き飛ばせるのだから、攻撃用の魔法なら致命傷を与えられるだろう。
お守りに入った魔法の説明が書かれた一覧表に目を通す。速読だ。
……そうだよ。このお守りがあれば抵抗出来る筈だ。
このお守りの中にはLv.35を超えた超人達にのみ扱える“天域魔法”が封じられている。それも30種全て。
相手が伝説級の化け物だろうが、無事で済む筈がない。
一覧表から目を離して再び吸血鬼を睨む。見たところ動きは無い。今のを警戒したか?
「……なあ、待ってんだけど?」
あっけらかんと、欠伸をかかれた。
「なんかしてくんのかと思って少し待ったんだけどさぁ、何もして来ないならもういいよな?」
非常につまらなそうな表情で背伸びをする吸血鬼を見て、俺の頭は真っ白になった。
冷めきった重圧が全身に襲い掛かってくる。俺の息は途端に荒くなり、視界が揺れて焦点が合わなくなってきた。
……何が希望だ。
俺は必死なのに、奴は俺を眼中にすら入れていないじゃないか。
奴はただ血色の眼で死体が広がる景色を眺めているだけで、そこに俺が映ってるだけに過ぎない。
奴は……俺を死人と同列視している。虫とすら認識していない。
なんの興味も、関心も、感情も持ち合わせていない。俺への認識はその程度なのだ。
……無理だろ。
俺は吸血鬼との絶望的な格差に気付いた。お守りを握っていた手が……緩んだ。
俺は何を血迷った事を考えていたんだ……?
吸血鬼に抵抗するなんて、無謀にも程がある……。
てか『一隻眼』はどうしたんだよ。この会場にいる筈だろ? 何してんだよ……。
開ききったままで乾いてしまった目が、無意識にまばたきをする。
ただ意味もなく何度もまばたきを繰り返し、繰り返し、繰り返して、
「……じゃあ死ね」
突然、吸血鬼が消えた。
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