第10話【Lv.7の抵抗】

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吸血鬼がどこに消えたのかを確認する間もなく、俺はある異変に気付いた。不自然に左肩が軽くなったのだ。 なんだ……?  軽くなった。左肩が軽くなった。あと左手が急に動かなくなった。痺れるとかそういうレベルじゃない。 汗ばんで震えた右手をぎこちなく動かして左肩を触る。と、気持ち悪い触感が返ってきた。……肉を触るような触感だ、これは。 ……いや、待て。普通ならそこにある筈のものがない。左肩にある筈のものが……ない。 認めたくない。認められるか。 俺の左肩が切り落とされているなんて、そんな馬鹿げた話がある筈がない。 これは何かの間違いだ。間違いなんだ。 だが俺が現実逃避に溺れる時間も、吸血鬼は与えてくれないらしい。 ……だってほら、見ろよ。俺の腹から手が生えてきてるぜ……? 笑っちゃうよこんなの。どうなってんだよ。夢じゃないとこんなのありえないだろ……。 俺の背後にいる吸血鬼は、俺の腹に手を突き刺したまま俺の身体を簡単に持ち上げる。 「お前少しだけ、ほんの少しだけ俺の事楽しませてくれたから、ちょっとだけ生かしといてやるよ」 吸血鬼は笑い、勢い良く腹から手を抜いた。今まで感じた事の無い激痛が全身に走り、熱い何かが喉から込み上げてくる。 口から血が漏れるも俺はそれを拭う事は出来ず、そのまま吸血鬼は俺が宙に浮いている間に脇腹に蹴りが入れた。 叫ぼうとしたが声は出ず、代わりに血を口から溢した。そのまま向こうの壁に叩き付けられ、重力に従って頭から地面に落ちる。 そうして床に倒れ込んだ俺の身体は、全く動かなくなった。頭の天辺から足の指先まで微動だにしない。自分のものとは思えないくらいに反応しない。 身体の感覚が掠れていく。 無くなった左肩と貫通した腹部はさっきまで熱湯を浴びたように熱くて叫びにならない激しい痛みだったのだが、今は不思議なくらいになんの感覚もない。 そして俺は、熱を帯びていた俺の身体が、少しずつ冷えていくのを感じた。 つま先、指先、足、腕、腹、胸、首……。 真夏だというのに、身体が熱を失っていく。凍えるように身体が冷える。意識が遠くなっていく。 そうか……これが、死ぬって事か……。 なんて、寒い……んだ……。 ……里帰り、しときゃ良かったな……。 ………。 ……ああ……なんか……眠いな……。 薄れていく俺の瞳が最後に映したのは、 不気味に笑う吸血鬼の姿だった。
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