「小さな願い」

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「……ほんとに転がり込んじゃおうかな。おまえが会社に行ってる間、俺が家事やるからさあ。おまえと暮らせたら、きっと楽しいだろうし。馬鹿女みたく変な嫉妬もしないし」  やかましすぎる蝉の声に、掻き消されそうだ。  体温よりも暑い空気が目の前を歪ませる。  いっそ醒めるなら、早く醒めてしまった方が。 「おまえが女だったら良かったのにな」  洗いたてのカーテンが窓辺で湿った風に煽られるのを眺めながら、小さな願いを胸に 宿す。  あと何週間かすれば聞こえなくなる蝉の声。  青すぎる空は、ひたすら気温を上げていく。  君が僕なしじゃ生きていけなくなればいいのに。  そうすれば、君は僕だけのもの。
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