「小さな願い」

5/16
前へ
/16ページ
次へ
 ベッドサイドに座ってカーテンのフックをひとつひとつはずしながら、君のことを横目で見る。  寝返りをうつ度にするりと髪の毛が流れる。  手に残る君のくるぶしの感触。  不自然にならない程度に君に触れる機会を、僕はいつでもうかがってる。  洗濯機と蝉の声が混ざりあって部屋中に鳴り響いて、テレビを点けても何も聞こえない。  うるさくて寝てらんねえって君は起き上がって、反対側の端からカーテンフックを取り外す。 「……なあ、マキの結婚式の招待状届いた?」 「ああ、出席で出したけど、おまえはどうすんの?」 「……行かねえよ。だってどうせサークルのやつらみんな来るんだろ。知ってんじゃん、みんな。俺がマキと付き合ってたの」  惨めなさらし者にはなりたくねえよ、と君は吐き捨てる。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加