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お客さんがいない店内で、航くんと二人きり。
水の流れる音だけが響く。
汗で濡れたシャツの背中が、効きすぎた冷房で急に冷やされて冷たい。
なのに頭の奥から何か熱いものがじわりと溶け出すような感じがして、何だか恥ずかしくなって早く帰りたいなと焦る。
逢いたいなって思うのに、逢っている間は何だか自分が自分じゃない人間になってしまう。
「今日はおじさんとおばさんいないの?」
「田舎に用事があってね。休みにしても良かったんだけど、なんかアレが回ってないと寂しくてさ」
そう言って航くんはガラス戸の向こうに目をやった。
赤と青が螺旋状に回るサインポール。
航くんが働いている美容院にはない物だ。
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