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空はまだ深い黒を湛えている時間。それでもきらめいている星たちは霞み始め月は地平線のすれすれへと迫っていた。朝が近い証拠だ。そう思えば深い黒の中にも新しい白が隠れているような気がしてくるから面白い。
誰にも見向きもされなくなった古い本たちが積み重なる階段めいた山の上。そこに一匹の猫がいた。瞼を閉じているが眠っているわけではない。なぜならその猫は前足を几帳面に揃え背筋をピンと伸ばして座っているからだ。それはどこか朝を待っているかのようで。黒の中にある白が音もなく膨らみやがて弾けるのを待っているように、ただ静かに佇んでいる。
そんな彼の背後で軽やかに地を叩く音が聞こえた。
「やっと見つけた」
叩く音と一緒に聞こえた声。声色は低めだが喋りかたがまだどこかあどけない。それは若い雄猫である証し。
話しかけられたプラトーは瞼を開ける。
振り向けば一匹の黒猫がいた。ミストフェリーズ。プラトーより一回り小さい、頭から尻尾の先まで真っ黒だが、顔と胸周りは白い猫だ。
そんな彼を見てプラトーは口元を綻ばせ柔らかく笑う。今の空みたい。そう思ったからだ。若い黒猫は夜明け前の空にとてもよく似ていた。
笑いかけられたミストフェリーズも物腰優しく笑い返す。挨拶の笑みだと思ったのだろう。なぜ笑いかけられたのか、本当のところに気付いていない。
「お疲れ様。相変わらず、すごいマジックだ」
プラトーは説明しなかった。挨拶だと思ったのなら挨拶だと思ってもらえればいい。それにかけた労いの言葉も嘘ではないのだ。
「ありがと」
ミストフェリーズも労いの言葉を素直に受け止める。
今宵またマキャヴィティが現れていた。犯罪王として皆に恐れられている謎の猫。そんな彼が突如現れ仲間を一匹連れ攫っていったのだ。それを解決したのが彼、ミストフェリーズだった。彼は連れ去られた仲間をマジックでたちまち連れ戻してみせた。皆からマジカルミスターと呼ばれるのは伊達ではない。彼の前では犯罪王も太刀打ちできない。できない「らしい」のではない、本当に太刀打ちできないのだ。いや、「太刀打ちしない」と言うべきか。
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