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そのときアスパラガスは昼寝をしていた。
人間たちが作りかけのまま置いてある工事現場の一角。猫たちが集まるゴミ捨て場から一番遠い場所には無人のトラックが一台止まっている。アスパラガスはその下に潜り込んでいた。体を丸く縮めている……訳ではなく、背筋は伸ばせるだけ伸ばしているわ、四肢を好きな方向に放り出しているわ、まるで猫らしかぬ格好で眠っていた。無人トラックの下という警戒のいらない場所だということを考慮しても彼の寝相はあまりにも抜けている。しかも若干の寝返りはあれど、この体勢で途中で雨が降ったことにすら一切気付かずずっと眠っているのだ。いつから眠っているのか、きっと彼自身もわかっていないだろう。
そんなアスパラガスがようやく目を覚ました。半開きの口をそのままに眩しそうに目をけたたましく瞬かせている。音が聞こえた気がしたのだ。ずっと眠っていたアスパラガスが目覚めるほどの大きな音。
しかし耳を澄ませてみても音など一向に聞こえてこない。
気のせいかとアスパラガスはごろりと寝返りを打つ。
再び瞼を閉じたとき、やはり聞こえてきた。正しくは音ではなく声だ。雄か雌かもわからない高い声が複数、近くから聞こえてくる。
アスパラガスは今度こそ目を開け、頭を上げた。こういうものは一度耳に入ってくると気になってしまうものだ。腹を地に着けた低い体勢で移動するとトラックの下から頭だけ出して辺りを見回す。
まず驚いたのは水の匂いだった。空気中にいつもより含まれている湿っぽい匂い。地面にはところどころ黒い水たまりも見える。ここに来てアスパラガスはようやく雨が降ったことを知った。いつの間に降ったのだろうと考えているところに、子猫の声が聞こえてきた。
「なんでダメなの?」
「だって、だってダメなんだよ」
「変なの!『ダメだからダメ』だなんて」
言い争いのような押し問答のような、なんとも言い難い会話内容だ。どこから聞こえてくるのだろうと辺りを見渡したアスパラガスは、高い場所にいる二匹の子猫を見つけた。
アスパラガスがいる無人トラックのすぐ隣には金属の山があった。鉄骨らしき丈夫で長い貴金属が無造作に積み上げられた場所。その上に子猫が二匹いた。
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