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空から青色がすっかり消え黒のカーテンに覆われた時間。太陽はもちろん、今日は月すら顔を出していない。星は出ているのだがこの辺りは木々が生い繁っているせいで中まで光が届いていなかった。
そんな闇の中、飛び回っている猫が一匹。傍目からはただの影にしか見えないが、その猫は暗闇の中を縦横無尽に飛び回っている。猫は夜目が利くため暗闇だろうが関係はないのだが、それにしてもこの猫は飛び抜けて身軽だ。まるで目の前に木々などないかのように足場から足場へと移動している。ただ後ろが気になるのか時折振り返っては背後を確認しているのが目に付いた。
影の動きが一旦止まる。かと思えば勢いをつけて飛び跳ねた。思わず感嘆の声が出そうなほど綺麗な弧を描いた大ジャンプだ。
降り立った先は古いソファの上。決して厚くはない背もたれの天辺に寸分違なく着地する。ソファの周りには木々がなく、星の光が有り余るほど降り注いでいた。おかげで彼の姿がはっきりと見てとれる。オレンジがかった茶と白のかけ網模様の毛並み。首には赤いバンダナを巻き、背中には大きな麻袋を担いでいる。
泥棒猫のマンゴジェリーだ。何度人間に追い立てられても、何度仲間に追いかけられても懲りずに繰り返す問題児。その素早さは仲間内でも一二を争う腕前だ。それ以外はあんまりだけど、とは相棒であるランペルティーザの談である。
今夜は既に稼いだらしく、背中の袋はぱんぱんに膨らんでいた。その袋を一揺らししてから彼は振り返る。もう何度目かわからない背後の確認だ。
「大丈夫かなー……?」
誰に聞かせるわけでもなくひとりごちた。気になっているのは相棒であるランペルティーザのこと。今宵の稼ぎは途中まで滞りなかったのだが、最後の最後でマンカストラップに見つかるという不運に見舞われた。そこで彼らは分かれて逃げたのだ。これなら最悪でも稼ぎの半分は死守できる。隠れ家で落ち合う約束をして二手に分かれてから、もう随分と時間が経っていた。
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