第1章

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 天気の良い、休日のある日。私はとある家電量販店へと来ていた。  誰もが聞いたことがあるだろう、特徴的な宣伝曲を持つこの店は、大都市の主要な駅のすぐ近くによく店舗を構えている。  大都市のターミナル駅の徒歩二分という立地の店舗を維持するには、莫大な経費がかかっているだろう。そんなことは素人でも分かる。けれど、この店舗はきっとそんな問題を屁とも思わないくらい儲かっている筈だ。採算など余裕を持って採れているだろう。  そう勝手に理解してしまうほどに、この場所はいつも人に溢れている。今日も、金曜日という平日の昼間であるにも関わらず、一体どこからこんなにも湧いて出てくるのかと言いたくなるくらい、人が詰めかけている。どのフロアに行っても、黒山の人だかりだ。  それほどに人が集まるには、訳がある。  ただの家電量販店と言っても、この系列店はそれに留まらない。中でも、この店舗へ来れば、何が何でも揃っているのだ。地下二階から地上十一階まで、全てのフロアにぎっちりとありとあらゆる品物が揃っている。  寄生している実家から突然身一つで放り出されたとしても、この店舗へ来れば何も生活に困らない。費用さえあればの話だが。  ここには不動産以外の全ての生活道具が揃っていると言っても過言ではないのである。  そして、私はこの空間が好きだ。大型家電から、生活必需品から、下着に至る衣服まで何でもあるこの場所が好きなのだ。休日は無論、時間さえあれば、疲れ切った仕事の後でも足を向けるくらいに。  ここにいるのは同じような人間の集まりなのだろう。勝手にすれ違う人々全てに親近感を覚えて心が和む。  さあ、今日はどんな出会いが待っているのか。  最新式の洗濯機か。発表されたばかりのパソコンか。新しい目覚まし時計か。心を癒す観葉植物か。童心を呼び起こしてくれるいやらしくない大人の玩具か。人に教えたくなるような使い勝手のいい筆記用具か。  私はわくわくしながら一階入り口から入って奥にある、下りと昇りが4列になって並んでいるエスカレーターに乗って上階を目指した。  私がまず選んだ行動は、この店舗の十一階にあるお気に入りのタルト専門店でお茶をする事である。  最上階まで行くにはエレベーターが便利ではある。しかし、混んでいるエレベーターを待つよりも店の様子を見渡せるエスカレーターに乗る方が好きな私は、迷わずそっちを選んだ。
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