第1章

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「そう睫毛。最近マツエクしてる子増えたじゃん。その子、合コンの時からメガ盛り状態だったろ。それが、デートになったらもっとだったんだよ。もうほんと次郎の野菜ましまし状態。見ただけで御馳走様だよ。まあ睫毛だけじゃなくて、カラコンもだし、お人形さん目指してますって感じでさ。肌もパテかってくらい、能面になるほど塗っちゃってさ」 「それは、なんというか……」 「だから、君の素顔の方が好きだってホテル連れ込んで剥いちゃったってだけで」  ……。 「ってオイ」 「結局そこかよ」  ほかの二人が呆れ気味だ。私も含めて三人だ。 「でも、素顔の方が可愛かったよ。恥ずかしがってる表情も相まって、燃えるわな。やっぱり化粧している女の子のさ、外の顔から家の中の顔にさせる瞬間がなんつーの? 一番むらむらする」  綺麗に見せたい相手がいるから、女の子は化粧を頑張るっていうのに、この男はその努力を無にする行為に燃えるんだそうだ。 「変態め」 「何とでも」 「じゃあ、今日も派手系だし、脱がすっつーか丸裸にする楽しみができていいんじゃね」  そうだ。この男どもは今日、また合コンという狩りに繰り出す予定なのだろう。 「ってかさ、その子とは付き合わないの?」 「んー?」  私が聞きたかったことを仲間が聞き出している。体の関係を持った相手がいるのに合コンなど行くのは多方面に向かってルール違反だ。 「付き合わないよ。だから今日来たんじゃん」  あっけらかんと言い放った相手の、頭のねじをぎっちぎちに締めてやりたい衝動に駆られつつ、私は更に上階を目指してエスカレーターを渡っていく。 「へえ。相手の為に少々やりすぎかもしれないけど気合の入った化粧してくれる可愛い子で、最初のデートで脱いでくれるような従順な相手なのに何が悪かったの?」 「そこがダメなんじゃん。最初のデートですぐに脱いじゃう子とは付き合いたくないでしょ」  うへぇ。本当に、好き勝手言ってるなあ。脱がしたのは貴様だろうに。 「……。はぁ?」  あ、しまった。気持ちが口からエクトプラズムみたいな大きな溜息になって出て行ってしまった。 「……」  背後の会話が止まっている。  聞かれたか。気詰まりな空気が蔓延した。そう思ったけれど、空気を混ぜ返すような明るい声で、連れの男が話を続けてくれた。 「まあ。そうだよな。軽い子は嫌だって言ってたもんな」
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