第1章

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「今日は、お前が付き合ってもいいと思えるくらいの良い子がいるといいなあ」 「ホントにな」  全く、こんな遊び人の毒牙に引っかかる女の子が少しでも少なければいいのに。女の子に対する数々の発言からして、よほどのイケメンでないと許されない発言である。  遊ばれても、どんな姿を見られてもいいと、そう思える相手でないとこんな男の相手なんかできない。  そう考えてしまったのが悪かった。一体どんな男なのだろう、という好奇心が涌いてしまったのだ。  エスカレーターは順調に上階へと登っていき、十階から十一階へと続く踊り場で、私は振り返って、三人の御尊顔を確認してしまった。 「……」  三人組は十階で降りていこうとしていた。十階もカフェなどの飲食店が入っている。そこで作戦会議とやらをするのだろう。  私の視線が捉えたのは、こっちを見る黒髪、長身、メガネの男だった。それを見て、私の心臓が電気ショックを受けたように収縮した。  正直、私好みだった。そんな外見を持つ男は目が合うやいなや、私をじっと見て、口の端を持ち上げて笑った……ように見えた。 「あんな子だったら付き合っていいかもな」  十一階へと登るエスカレーターに乗っている私の背中に、男が発した声が聞こえた。それきり、彼らの存在は私の前から消え失せた。  あの言葉が私に向けたものとは思わない。それなのに、心臓がどきどきしている。いくらなんでも、いい歳こいて、これは不味い。  あんな男に引っかかっていたら、いくら心臓があっても足りなくなってしまうだろう。突然、瀕死になるほどのダメージを与えられたような、私の心臓はそんな有様だ。  はあ、と溜息を吐いたものの、私はこの十分後には今の出来事をすっかり忘れている。  美味しい苺のタルトを食べることによって、削がれた気力は回復し、食べた後は、最上階から降りながら順番に最新の家電を見ていくことで、私のHPゲージは満タンまで回復していった。  ひっそり作成している欲しい家電リストを更新して、今後の買い替え予定を計画する。そう考えることで私は仕事をする気力を養うことができるのだ。  それと、この楽しい週末の仕上げは、友人との飲み会だ。気心の知れた相手と過ごす晩餐が、平日を戦う体力を培ってくれる。  約束していた時間まで、量販店をぶらぶらしてから向かった先で。  どうしてこんなことが起こるのだろうか。
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